がんばれ、日銀

(1999.9.24 七尾記)

  1. 日本銀行は去る9月21日、円高対策との関連で「これ以上、市場にお金をばらまくことは不必要だ」との大変立派な政策決定をおこなったように私には思えます。

    日本の大蔵省や米国財務省から相当の圧力があったと思われるのですがそれを見事にはねのけ、金融当局としてまことに毅然とした態度で正しい決定をしたのです。しかもそのような決定に至る考え方を、総裁記者会見や臨時の記者発表文で内外に明確に示したということも立派だったと思います。

  2. 日銀の今回の行動は、30年余りも官界に身を置いてきた私には大変新鮮に思えます。このようなことは一昔前なら考えられなかったことでした。日本はやはり確実に変わりつつあるのでしょう。速水(はやみ)日銀総裁は21日の記者会見で、「中央銀行として、目的と政策効果についてきちんと説明できない政策をとることはできません」と言い切ったのです。きわめて当たり前のことを言っているわけですが、その当たり前のことが戦後の日本では長い間、できなかったのです。だから今回の出来事は画期的な意味を持っているということです。

  3. ことの次第は私なりの観察もまじえて申せば以下のようなことになりましょう。今回の円高は去る6月ごろから始まりました。もう3ヶ月も続いているわけですから、一時的乱高下ではなく傾向的・構造的なものだというべきでしょう。この円の上昇が日本からの輸出に悪影響を及ぼし、せっかく鳴り物入りで進めてきた経済回復に水を差すようなことになれば大変だということからドラマは始まっています。

    日本政府は、確認されているだけでも6月、7月、9月と三次にわたり円売り介入をおこないましたが焼け石に水の状態で、円は上昇を続けてきています。政府は、米国とあるいは先進7カ国(G7)と共同で円を市場で売り浴びせないと、日本政府単独ではとても太刀打ちできないということから協調介入実現のための打診工作を行なってきているようです。円高防止のための介入に他国に手を貸してもらおうとすれば、それなりの自助努力が見返りに求められます。財政と金融を両輪とする景気対策や構造的改革の分野で最善の努力を払っていることを各国に示すことが必要となったわけです。

  4. そこで日銀にも金融面で応分のご協力をということで政府が働きかけたところ、日銀からはバッサリと断わられたというのが今回の出来事です。日銀としては為替レートの急激な乱高下に対処する用意はあるが、景気対策としては金利もゼロとなっており、資金量も市中に溢れており、今や、やれることはないということで、上出の総裁記者会見となったという次第です。これ以上、お金を市中にばらまけば、いつか来た道、バブルへの道を歩むことになりかねないということです。 (ちなみに日銀は、「金融政策運営を為替相場のコントロールということに直接結び付けると誤った政策判断につながるリスクが高いことは、バブル期の政策運営から得られる貴重な教訓になっています」とはっきり今回述べています。)

  5. 今や誰の目にもはっきりしてきたことは、日本内部の体質や構造の改革を進める以外にこの円高を乗り切る究極の手はないということです。財政もつなぎのカンフル剤としては役割を果たせますが、乱用すれば借金財政へ転落してしまい、いずれこのままでは「円」の国際的信任ははげ落ちてしまいます。金融緩和も実際の需要に見合って節度を守っていかないとインフレやバブルへの道につながります。  日銀の今回の決定は、これからの時代は円高でも生き残れる体力と才覚を自己改革により企業や個人がみずから身につけていくほかないですよと暗にいっているに等しいのです。

  6. 思うに、日本経済や企業の円高抵抗力はバブル破裂(1991年)以来の長期不況を通じてそれなりに身に付いてきているといえます。

    家庭の主婦も安くて良質のものがあれば東南アジアからの輸入品でも構わないという考えに変わってきています。

    大胆なリストラを決意した企業の株価が市場で評価され、これが最近の日本の株価の上昇にかなり寄与してきていることは御承知の通りです。今回の傾向的な円高も実はその一環なのです。経済が当面の限界に近づいて調整を余儀なくされているニューヨーク株式市場から、東京市場に資金を移す外人投資家がどんどん出てきているのも、期待感半分とはいえこのような経済の動きを素直に反映したものだと捉えるべきでしょう。

  7. 「為替レートの構造的・傾向的な動きは政府の介入によって食い止めることはできない。一時の乱高下を和らげたり、傾向的な動きの進行を少し遅らせることがせいぜいだ」というのが国際的常識となっています。日本の企業やわれわれひとりひとりが、為替水準を変えることによってこれまでの居心地の良い環境を維持しようとするのではなく、自らを変えていくことによって新たな機会を創り出していくとのきびしい決断をするべき時にきているのです。海外の投資家もふくめ外国の人々は、正にこのような決断が日本社会全体としてなされたのかどうかに注目しているように思われます。

  8. このような時代の正しい流れに、今回の日銀の勇気ある決定は力を添えてくれるものといえます。「がんばれ、日銀」です。皆さんはどうお考えになりますか。


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