「米国企業が元気な理由(その2)」―夜8時のゴルファーたち

1999. 9. 7.  七尾 記

米国のハイテクビジネスマンたちとゴルフをやりました。午後の4時から始めたのですが、宵闇が迫ってもあと3ホールだ、がんばろうということで止めようとしないのです。打球のゆくえにいくら目を凝らしてみてもわからなくなった暗闇の中でも、見当を付けた方向に自分のボールをなんとか見つけ出し、クラブハウスの明かりを目指して打ち続け、ついに18ホールをやり遂げたのです。時計は夜8時を指していました。

こういう連中は明らかに一般のアメリカ人とは異なるタイプの人達です。やりだしたら止めないあくなき目的追求の姿勢、そのプロセスの中で冗談を飛ばし自らに課した試練を楽しむ生活態度には、強烈なエネルギーを感じました。ゴルフの途中で雨が降り出し雷でも鳴りはじめれば、普通のアメリカ人なら未練もなく途中でゴルフを切り上げるのですが、このハイテク起業家たちは明らかに異なった人種なのです。

かれらはゴルフをやりながらのビジネスにも余念がありません。昆虫の世界では、触覚で相手が同族であることを匂いや発信音で確かめながら生殖行為をするというドキュメンタリーを見たことがありますが、まさにハイテクビジネスマンのサークルはまさにそういう世界のようです。相手が同族であるなと確かめると、たちまちにビジネスの種がまかれるのです。

かれら起業家の多くはハイテク技術に通じています。日々、めまぐるしく変遷、発展していく技術動向を正確に把握していないと起業の命運を危うくしてしまうからです。もともとIBMやAT&Tのようによく知られた大企業の研究部門に10年くらいいてそれなりの経験を積み、さらには人脈を持つに到った人達が、仲間からの誘いで大企業から飛び出し、起業するということが多いようです。

かれらが日本の技術者に出会うと驚くことが多いといいます。日本の一流企業に所属する技術者達のなかには、独立して起業家になりたいとの願望を口にするものも多いので一緒にやらないかと誘うと、就職に際して大学の教授に口を利いてもらった経緯があるから先生の顔をつぶすようなことはできないなどといって躊躇するというのです。アメリカでは先生が就職の世話をするということは考えられず、学生は自分で就職先を探すのが当たり前なのです。

「日本でも、若者を中心にどんどん変りつつあるよ、社会がそういうタイプの起業家を求めはじめているから」と私は応じておきましたが......... 。

気がついたら、夕闇迫る最後の3ホールで私は三つもボールを失っていました。かれらはその間に草むらの中から他人のロストボールをいくつも見つけ出し得意になっていました。転んでもただでは起きない連中です。


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