「どうする、北朝鮮問題」

2006.11.20 七尾清彦 記

10月9日、北朝鮮は核実験成功を発表した。実験が本当に成功だったかどうかは、今後の北の行動で次第に明らかになっていくだろう。確かなことは、北が故金日成・金正日の親子二代に亘って営々と核開発を進めて来ているということである。

不安定で危険な独裁政権がミサイルで数分の距離の所にいるのだから、日本のみならず他の周辺諸国にとっても迷惑な話である。われわれの世代が対処を誤れば子孫の代まで危険にさらすことになる。メディアでは連日「にわか専門家」が次々と登場し、玉石混交の巨大な情報洪水を生み出している。事実関係の情報を得るにはメディアは有用であるが、問題の評価と判断にあたっては国民ひとりひとりが自分で考えるようにしたいものである。

とはいえ北朝鮮問題はすぐれて複雑かつ多面的であり、私自身、関心を持てば持つほどに却って混沌に引き込まれてしまうことが多い。断片的情報のあれこれも大事ではあるが、先ずは全体像を理解するための基本的なことがらは何かということを整理したほうが賢明のようだ。そういった基本的視座とでも言える事柄を私なりに整理してみたのが以下の5項目である。もしこういった基本的視座について日本国内での議論が進み、大筋において考え方の整理がなされて行けば大変いいことだと思う。

1.まず心得ておくべきは、金正日が政権を掌握している限り、核開発政策を放棄することはありえないということである。核武装はこの独裁政権の「主体的」存続のための不可欠の要件のようだ。食糧・エネルギー支援や体制存続保障といった一片の国際約束と見返りに、北が核開発を放棄することはまずありえないと見ておく方が安全だ。

2.日本にとって望ましいのは、朝鮮半島が非核の状態に維持され、わが国に友好的で民主的な統一国家が朝鮮民族の手で平和的に実現されることにある。しかしながら、北の核開発は刻々と進んでいると思われるので、いわば時計との競争という側面がある。核兵器の実戦配備など取り返しのつかない事態に至る一歩手前では、国連憲章第7章による軍事的共同行動の発動も覚悟しておくことが必要である。絶対平和主義は、北朝鮮のような国には残念ながら通用しないのである。

3.外部による検証を伴った核開発計画の凍結・放棄に北が応じない場合は、金正日政権そのものの排除が必要となる。北朝鮮で何が起きるかは予測の限りではないが、国内の軍部や大衆の反抗が体制転覆の導火線になる可能性はかなり小さいとされる。だからと言って、脱北者支援や一般大衆への外部情報の伝播、人道支援などが意味が無いということではないが、体制変換への決定的な要素にはなりにくいということである。そうした状況下ではやはり外圧による強制がどうしても必要となる。

4.外圧には、中国主導か米国主導のいずれかしかない(露も関与しようとするだろうが、露が主導国となることは米・中とも許さないだろう)。地政学上、北朝鮮が中国の影響圏内にあることは誰の目にも明らかであり、米国主導の圧力では中国は黙っておれなくなる可能性が高い。だとすれば、北朝鮮の政権や体制の変更を中国の第一義的責任のもとに行わせるよう仕向けていくことが、良策ということになる。

5.北京が北の体制変更も止むなしと判断するに至るために何が必要かは、日本としては見極めておくことが大事である。米国主導の軍事圧力により北に米国寄りの政権が生まれることは、中国としては避けたいところであろう。また日本やその他の極東諸国で核武装論が強まって行きかねないことも、中国にとっては悪夢であろう。中国の高度経済成長維持に必要な資本移動や技術移転が阻害されるような国際情勢も避けたいところであろう。

中国が重い腰を上げて金正日独裁を潰しにかかるまでには、まだ多くの展開が必要であり、時には虚虚実実の瀬戸際的な事態も生じるかも知れない。中国にとっては簡単ではない決断であろうが、地政学的に影響圏内にある北朝鮮にここまでの勝手を許してきたことに中国は責任がある。

いずれにせよ北朝鮮問題の解決のためには、米中がどれだけ信頼し合い協力し合えるかが、鍵である。これを補強・担保するためには、米中露日韓五カ国の枠組みでの密接な連携と、究極的には国連の錦の御旗が必要ということになる。各国がこの困難を乗り越えたとき、本当の意味の集団的安全保障体制が極東に定着していくことになる。


以上の如き基本的視座を日本社会全体で煮詰めておければ、わが国が、日々生起する出来事に振り回されたり、衝動的対応に走ったりすることは避けられるものと思う。もとより上記5項目は筆者が一介の市井人として素描を提示したものに過ぎず、その道の識者・賢者の批判を仰ぎつつ、事態の推移に応じて不断に見直して参りたい。

重大な局面を迎えた北東アジア情勢を前にして、われわれ日本人が再び自国や北東アジア地域の将来を誤るようなことがあってはならず、開明成熟した日本として後世に恥じることのない立ち居振る舞いを粛々と示していくことを念じる次第である。

(了)


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