エージェンシー化(山本さんの研究) 1999.6.七尾記

コロラド大学での論文審査会

コロラド大学で行革をテーマに博士過程に挑戦しておられる日本人女性の山本さんに頼まれ、彼女の博士論文審査員のひとりとして同大学で久しぶりにアカデミックな雰囲気にひたることができました。おかげで、行革と一般に言われていることについて頭の整理ができたような気がします。行革を、政党や官僚に任せておくのではなく、今後私たちの市民的参画によって“より小さな、より効率的な”行政を全国津々浦々で実現していかなければなりません。その際に、行革についての学問的整理の大筋を心得ておくことは大変参考になります。

「親分・代貸」方式と「外注委託」方式

行革は大きくいって2種類に分かれます。

第1は外科手術的なもので、政府から完全に切り離して民間セクターに移してしまうもので、旧国鉄や電電公社の民営化などがこれにあたります。これは日本でもかなり進みましたね。

第2はより内科的な療法です。政府や地方公共団体のおこなう諸々のサービスを、引き続き行政の一部として位置付けつつ、同時に民営のメリットをできるだけ取り込もうとするものです。山本さんの論文はこの分野に光を当てようとしているのです。

この第2の分野の研究について私なりに勝手な名前を付けるとすれば、ひとつは「親分・代貸(だいがし:組の幹部)」方式(山本さんによれば、イギリス方式)、もうひとつは、「外注委託」方式(山本さんによれば、アメリカ方式)の2種類が理論的にはあるようです。

1. 親分・代貸方式

政府の機能は、基本的には政策企画と行政サービス実施の二つに分かれます。親分・代貸方式は、この実施部分を親分(省)の直接支配から切り離し、エージェンシーとして組織的に独立させ、人事や運営面でかなり代貸の才覚に任せようとするものです。もちろん親分と代貸は、相談しますが代貸は幹部でありヒラの子分ではないので、うまくやってくれれば成果を期待することが可能です。

日本では「独立行政法人」という名の下にエージェンシー化の試みが始まろうとしています。これは多分に、親分・代貸方式に近いもののといえます。

2. 外注委託方式

実は米国では、エージェンシー化された部局の数は、この道の先進国であるスウェーデンや英国などに比べて少なく、ある意味ではより慎重だといえます。しかし、契約により民間の経営者に行政サービスを委託する訳ですから、エージェンシー化された部局は完全民営化されたのと変わらないくらいに効率化が進むのです。

ただし、このようなやり方になじむ部局(たとえば運転免許証の発行などは定型的なサービスであり運営効率を計ることができるとともに、料金も徴収するので一定の収入基盤があり、比較的に企業的経営になじみやすい)と、なじみにくい部局(たとえば研究所などでは、短期的な出来高制を適用することはむつかしい)があります。

日本版エージェンシー化

エージェンシー化の追求は日本でも国だけではなく、県や市町村の行政についても、納税者あるいは住民としてみんなで智恵を絞っていかなければなりません。エージェンシーの運営を、親分と代貸の間のようなときには不透明な関係にまかしておいて良いのか、より透明な契約による外注方式が良いのか、すぐれて日本の社会的風土とも関係することですから試行錯誤は避けられませんが、日本版のエージェンシー化を開発していくことが肝心です。

この意味でも、山本さんのご研究の成果がおおいに期待されるのです。


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