カリフォルニアの歓喜と幻滅

七尾 清彦

 21世紀の挑戦に日本がしなやかに対応していくためには、われわれの民主主義の改革・改善は不可欠だと思われる。冷戦の終結、湾岸戦争、バブル経済の破裂、大震災などに当面して、戦後の政治、行政、経済が有効に対応出来ず、制度疲労と腐敗が誰の目にもあきらかになったことがこれを証明している。

 神戸新空港建設の是非をめぐって市議会に住民投票実施条例の制定を求め拒否された住民は、今現在、自主管理による住民投票を展開している。これは、現行の政治制度の欠陥を示すものであり、単なる制度疲労の問題として片付けてしまう事はできないようだ。

 価値観がますます多様化し、また当面、低成長しか期待できない来世紀の少なくとも最初の数世代には、世代・性別・地域・宗教などで、また、成長か環境かなどのイシューごとの選択・決断の問題において、利害対立の調整がますます重要となるとみられる。

 このような事態に日本人が対処していく上で、この四半世紀にわたり米国カリフォルニア州で展開されたポピュリズム(民衆主体の政治手法)の勃興と幻滅という壮大な政治ドラマは、他山の石として大変参考になるものを含んでいるようだ。ここでは、その概要と問題点を整理して、今後の議論の糧としたい。

  1. カリフォルニアでは、戦後の繁栄のもと、アメリカン・ドリームを実現する州、黄金の国(エルドラド)カリフォルニアとして、全米や世界から羨望の眼で見つめられていた。高速道路の整備、水利灌漑システムの構築、教育水準、良質の行政などで、全米のトップレベルにあった。

  2. 1970年代に入り、成長の停滞、インフレの昂進、ラテン系・アジア系移民流入の増大などを背景に、重税負担感が納税者の間に強まった。納税者の不満は、固定資産税の基礎となる家屋や土地の評価を1975年レベルで凍結するべしとする住民提案13号(Proposition 13)の形をとり結集され、これは1978年6月の住民投票で可決された。

  3. この「納税者大反乱」の嵐は、カリフォルニアの経済が立ち直りはじめた1990年代前半まで吹き荒れた。住民提案(イニシアチブ)と住民審査(レフェレンダム)を軸とした直接民主主義が代議政治に優先し、結果としてみれば歓喜と幻滅が交錯した20年であった。代議制の腐敗や住民意志からの乖離は除去されたが、州、郡、市町村、学校区などの歳入は激減し、教育の荒廃・社会保障水準の低下・道路網の劣化・政治や行政の質の低下・犯罪の増大などを招いたのである。
  4. カリフォルニアでは最近になって、これまでの直接民主主義の行き過ぎに対する反省が出てきている。同時に、代議制に対する不信感も依然、根強い。経済・ハイテクで一人勝ちの米国を演出するカリフォルニアが、貧困化した「政治」の問題に今後どのように対応していくかは、21世紀の米国を占う上でのみならず、我が国自身の改革を考える上でも大変重要と思われる。
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あるカリフォルニアの老練の政治家が言った言葉がある…「民の声は神の声ではない。民の声はかってキリストを十字架に送り込んだではないか。」

 民主主義を代議制の欠点や直接民主制の行き過ぎから守りながら日本独自のものを育てていくにはどうすればよいか、これは永遠の課題でもあるが、同時に避けてはいられない問題でもある。神戸に限らず、日本各地で火が付いているのである。

 私は、大きな問題については、行政・経済界・住民の三位一体の参画型による徹底的な討論によるコンセンサスの模索と最終的には住民投票による決着というやり方に日本の将来があるのではないかと思っている。識者のご意見ご批判を歓迎する。


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