(1999年6月26日 七尾記)
私の滞在している米国コロラドスプリングスには、「ジュニア・アチーブメント」(以下JA)という全米規模のボランタリー団体の本部があります。全米で200万人以上の小・中・高校生に対し、課外授業で「価格とは?」、「利潤とは?」などの資本主義経済の基本的なことを教える事業を展開しています。
高校生くらいになると模擬会社を設立させて、ビジネスの実際を体験させるのです。先生役は、現役や引退したビジネスマンが無料奉仕で協力します。運営費は企業や個人の寄付でまかなわれ、州や連邦政府の世話にはならないことを誇りにしています。なんとこのJAは戦前からあるNPO団体です。
米国でいろいろな人に会って話していますと、もともと米国の教育には生徒の個性と自発性を尊重しそれを伸ばすという素晴らしい伝統があったのに、最近、役人がいろいろとくちばしを入れすぎるようになったため教育の質は低下する一方だと、強い口調で官製教育への反発を示す人が多いことに驚かされます。
たとえば障害を持つ児童も普通の生徒のクラスに入れて平等の機会を与えることが求められ(メインストリーム化といわれる)、先生も生徒も大変迷惑しているというのです。
日本での文部省による教育の管理・統制は、米国とは比較にならないほど厳しいものがあります。先日、大阪府庁の近くにある政府刊行物印刷局の書店に行きましたら、ベストセラーのリストが掲げられていましたがなんと「教育指導要領」が第2位に挙げられていました。
量よりも質の教育、個性を伸ばす教育が日本再生の基本だと多くの日本人が考えるようになりましたが、どのようにしてそれを実現していくかを市民や企業のレベルで考えるべき段階に来ています。JAによる課外教育の例や、それに対する市民や企業の協力は、その意味では大変参考になります。
JAの事業が全米で支持されているのは、上に述べました官製教育への反発に加え、そのコースに参加した生徒の成績がそうでない生徒よりも統計上高くなり、進学や就職に有利だとされているからなのです。このような実益があるからこそ生徒や親がJAに関心を示すのです。
コースでは、企業の社会的説明責任(accountabilityといわれる)や、消費者・労働者の社会的役割なども教えるのです。アメリカ資本主義の裾野の広さ、したたかさを感じさせますよね。
手始めに、日米の高校生の間で課外活動として、お互いに模擬企業を設立し、インターネットで取引きを実践してみてはどうでしょうか。指導は現役のビジネスマンが行い、費用は趣旨に賛同する地場企業や個人が出すということにすれば、旧来の教育以上の諸々の成果が期待できます。